津軽三味線は和の心〜津軽三味線奏者の徒然エッセイ

津軽三味線とは

三味線音楽のジャンルは長唄、端唄俗曲、地唄などさまざま有りますがその中に民謡と言うジャンルが有ります。

民謡の中でも特に青森県津軽地方の民謡の伴奏をするのが津軽三味線です。形は他の三味線とほぼ同じですが他の三味線に比べて棹は太く胴も大きく重量感があり奏法も弾くというより叩くというかんじです。

最近テレビ等メディアでも良く見かけたり聞いたりするようになり皆様も大体の事はご存知だと思います。このサイトでは津軽三味線のことをもう少し掘り下げて考えてみたいと思います。

●津軽三味線の歴史

津軽三味線の歴史と言っても一般的な三味線の歴史よりも大分浅いものです。私の知る限りでは明治の初め前後あたりからではないでしょうか。

「ボサマ」と呼ばれる目の不自由な男性が三味線を抱えて家々を廻り唄と三味線を聴かせ何がしのお礼を貰い生活をしていたのが始まりの様です。「ボサマ」の中に仁太坊と言う人がいて津軽三味線奏法の基礎を創ったと言われています。数十年前に津軽三味線ブームをおこした高橋竹山師も「ボサマ」だったそうです。

東京で最初にブームを巻き起こしたのは白川軍八郎という演奏家で聴いた人々はそれは感激したそうです。その頃の演奏家としては高橋竹山師、木田林松栄師など草々たる演奏家が居ました。

三十数年前NHKで「民謡をあなたに」と言う番組が始まりまた津軽三味線(と言うより民謡)がブームになり、澤田勝秋と言う演奏家が世に出ました。
そして、次は高橋竹山の時代になります。各地で演奏会を開き今で言うライブの走りだったのでしょう。その後暫く低迷していましたが、木乃下伸市、上妻宏光、吉田兄弟などの演奏家がぞくぞくと出現し現在に至るわけです。

スポンサードリンク

津軽三味線の奏法

一般的な三味線の奏法は胴の棹の近くの絃を撥で弾きますが、津軽三味線の場合はお
もに胴の中ほどを胴に張ってある皮を叩く様に演奏します。とてもダイナミックな音がします。また、「前撥」「後撥」と言う奏法があり「前撥」は胴の棹よりを「後撥」は胴の中央を叩くことで音の強弱を付けたりリズムを付けたりして津軽三味線音楽にとっては大事なテクニックの一つです。
左手のテクニックもほかの三味線よりもはじいたり、擦ったり指を動かす量も圧倒的に多いのが特徴です。
ここでもう少し細かく奏法テクニックについてお話しましょう。
『ハジキ』『スクイ』『スリ』『ユリ』『ウツ』『駒止め』『前撥、後撥』等のテクニックが有りますが『前撥、後撥』は前にご説明致しましたので省略いたします。

『ハジキ』
左手の人差し指(1の指と呼びます)薬指(3の指と呼びます)で直接絃をはじきます。
『スクイ』
右手にもった撥で絃の下からすくいます。
『スリ』
絃を押さえた指を移動させて絃をすります。
『ユリ』
スリに似た奏法ですがスリよりも振幅を小さくゆすります。
『ウツ』
左手の1の指又は3の指で絃をポンと打ちます
『駒止め』
音をなるべく小さく演奏する奏法で撥を持った右手の小指を皮に付け固定したままで
撥を操作するテクニックでわりと高度な奏法です。
細かく奏法テクニックを説明しましたが、あくまで胴の中央を力強く撥で叩くことが基本です。
これらのテクニックを駆使して次の三要素を演奏します。
『ドッテン』
おどろく、おどかす、などの意味で1の糸を叩く様な迫力のある音で表現します。
『ジャワメグ』
ざわめく、うきうきする、と言ったような意味で1,2,3の糸を駆使してリズムカルに演奏します
『ネズミ』
鼠ではなく音澄みと書きます。字の如く澄んだ綺麗な音色を出す奏法です。

これらの三要素を駆使してダイナミックにリズムカルに時には澄んだ音色で曲を構成
していきます。

津軽三味線の特徴

曲弾きと唄付け

津軽三味線は元来津軽民謡の伴奏楽器です。唄に付けると言う事から伴奏の事を唄付けと言います。
津軽民謡の代表曲と言えば何と言っても「津軽じょんから節」でしょう。
他に「津軽よされ節」「津軽あいや節」「津軽小原節」「津軽三下り」等の他盆踊り唄仕事唄などが有ります。これら唄付けの場合は主役はあくまで唄い手なのです。
それでは何で津軽三味線が現在において人気が有るのでしょう。
津軽三味線伴奏の場合前弾きと言って前奏部分にその奏者の独特なフレーズ、テクニックを駆使して三味線を聴いてもらう部分が有りそれぞれの奏者が競って新しい、人がやっていないフレーズ、テクニック考え発展してきました。いわゆる津軽のジョッパリ精神(他人に負けたくない気持)と言う事でしょう。
その前弾きだけが成長し発展したのがいわゆる「曲弾き」と言われるジャンルです。
現代では「曲弾き」の人気が急上昇しさらには津軽三味線音楽と言うジャンルまで発展してきました。
現在テレビメディアなどで耳にするのはほとんど津軽三味線音楽ジャンルの曲でしょう。「昔の曲を大事に守らなければ」と言う意見も有りますが、今後益々新しい津軽三味線音楽が出てくるでしょう。やはり現代でもジョッパリ精神が受け継がれているのでしょうか。

現代の津軽三味線

前にも述べた様にテレビメディアなどで耳のするのは津軽三味線音楽であって、唄付けを耳にする事は少なくなりました。一般の方々は津軽三味線イコールテレビメディアで耳にする津軽三味線音楽だと認知していると思います。
現代の津軽三味線奏者の名前を挙げると、木乃下真市、上妻宏光、吉田兄弟、澤田勝成、浅野翔などですが他にも沢山の演奏家が活躍しています。彼らの津軽三味線の修行を考えてみるとやはり先ず唄付けの勉強から始めているようです。
津軽三味線全国大会と言うものがあり、プロを目指す若者達が毎年挑戦しているようですが、やはり基礎となる唄付けあたりからしっかり勉強して挑戦してほしいものです。

津軽三味線をはじめてみよう!

津軽三味線を習ってみたい方へ

プロを目指すかたは別として、趣味で習ってみたい方へのアドバイスです。
まず、カルチャーセンターで指導している所が有ります。ここはほとんどがグループレッスンです。気軽に入会出来るのが特徴です。ですが個人レッスンの方が上達が早い事は間違いありません。個人レッスンで習いたい方は指導してくれる師匠を探さなくてはなりません。探す方法は色々有りますが、最近ではインターネットで検索する方が増えているようです。どのような方法でも何人かの師匠(会派)を調べてチェックするのが良いでしょう。「三味線は貸してくれるのか?」「月謝は幾らか?」「通える距離か」など、出来ればお稽古風景を見学するのがベストでしょう。
津軽三味線は数ヶ月で弾けるものでは有りません。継続は力です。やると決めたら根気をもって習いましょう。

三味線の保管方法

三味線はデリケイトな楽器です。特に胴に張ってある皮がデリケイトなのです。
湿気に弱く特に梅雨時、湿気のある夏には神経を使います。
湿気乾燥を繰り返すと皮が破れる可能性があります。
湿気を嫌う楽器ですから、なるべく湿気の無い場所、直射日光の当らない場所の保管するのが良いでしょう。
ケースの中に乾燥剤を入れて置くのも一つの方法です。
一番良いのはなるべく風にあててあげる事でしょう。と言う事は少しでも弾いてあげると言う事です。弾いた後は必ず艶布巾などで棹の部分を丁寧に拭いて汗などの湿気を取り除いてあげましょう。そして和紙袋で胴を保護して仕舞いましょう。
三味線を大事にすると言う事は弾かないで保管しておくと言う事ではないのです。



津軽三味線の考察

津軽三味線の将来性

プロの方は別として趣味で津軽三味線を演奏する方々は「唄付け」よりも「曲弾き」の方が圧倒的に増えるでしょう。テレビメディアはほとんど「曲弾き系」ですし、「唄付け」をやろうにも「津軽の民謡」を唄う人が圧倒的に少ないのです。また、これからもあまり増えないでしょう。これらを理由として将来「曲弾き系」津軽三味線が圧倒的な割合を占めるでしょう。

終わりに

津軽三味線は知っていても、生の音で津軽三味線をお聴きになった方はまだまだ少ないと思います。
私も一演奏家ですがなるべく多く各種イベントに参加して津軽三味線演奏を聴いて頂くと共に若手の育成に力を入れて行きたいと思います。